日本が世界に誇る名監督「黒澤明」が、武田信玄の影武者(替え玉)を描いた戦国ドラマです。
戦国最強とうたわれた信玄の「影」となることを選んだ男の悲喜を描いた作品です。
天下を狙う武田信玄は、三方ヶ原の戦いで徳川家康を完膚なきまでに破り、野田城に攻めかかりますが、城の包囲中に敵の鉄砲狙撃にあい、甲斐への撤退を余儀なくされます。
しかし、西上作戦の前から病んでいた信玄は甲斐に戻る前に力尽きて亡くなります。
信玄は、自身の跡継ぎの勝頼が短慮で血気にはやる質であることを憂慮し、亡くなる前に「自分の死を三年間は秘すこと。国の守りを固め、決して外征しないこと。そうすれば武田は安泰である。」と重臣たちに遺言します。
信玄の弟・信廉はかねてより、盗みの罪で逆さ磔(はりつけ)に処せられるところだった信玄と瓜二つの罪人を見つけ出して信玄にも引き合わせていたので、信廉と重臣は、その罪人に三年間信玄の影武者を務めるよう説得します。
「影武者」は、最初はぎこちなく、孫や側室たちに疑われるなどヒヤヒヤすることも多かったのですが、評定や戦を通じて影武者自身も成長し、側近たちも信玄本人と見分けがつかないぐらいになっていきます。
しかし、ある日影武者は、故・信玄の愛馬「黒熊」に乗ろうとして落馬し、その際にはだけた上半身に川中島の合戦で謙信から切り付けられた際の刀傷が無いことがバレてしまいます。事ここに至って重臣たちも信玄の死を隠すのを諦め、信玄の葬儀を行い、正式に勝頼を跡継ぎとして公表します。そして、影武者は、躑躅ヶ崎の館を追い出されることになります。
信玄の死を聞いた信長・家康が長篠城を攻略すると、重臣が止める中、短気な勝頼は信玄の遺言に背いて出陣し、自慢の武田騎馬隊は信長・家康の鉄砲隊三段撃ちによって壊滅します。
影武者は、長篠にもこっそり出てきており、合戦をハラハラしながら見ていましたが、武田騎馬隊が壊滅したと見るや自身も槍を取って信長・家康鉄砲隊に突撃し、狙撃されて倒れます。影武者は、息も絶え絶えに川に入って水を飲もうとしますが、下流に孫氏の旗を見つけ、そこまでたどり着こうと泳いでいるところで力尽きてしまいます。
■感想&レビュー
巨額の予算を投じて作られた昔の映画であり、合戦シーンや城などもCGを使わず、実際の人や城が使われているため、戦国ファンも十分堪能できる映画となっています。この映画の総予算は9億円ですが、黒澤明は、はじめ12億円の予算を要求していたと言われています。1980年当時の貨幣価値は、現在の約1.6倍なので、9億円は現在でいうと14億円相当にもなります。邦画の平均予算は3億円程度と言われているので、4倍以上の予算を掛けた対策ということになります。
また、長篠の戦いのシーンについても、昨年の北海道地震で有名になった北海道厚真町の広野に延々と馬防柵を築いてロケを行ったそうです。
お城についても、伊賀上野城・熊本城・姫路城といった実際のお城が使われています。
野田城については、おそらく熊本城が使われています。
実際の野田城よりはかなり大きいと思われますが・・・
野田城は、遠近法もあり、まだそれほど違和感が無いのですが、信長の居城である岐阜城に使われているのが姫路城という点にはだいぶ違和感がありました。岐阜城は急峻な山頂に作られた山城であったため、姫路城のような絢爛豪華な平城では無かったでしょう。
しかしながら、時代考証もしっかりとされていて影武者が躑躅ヶ崎館にはじめて帰還した際に重臣から「不動王、毘沙門堂の順に通って主殿で家臣の挨拶を受けるように」といった躑躅ヶ崎館の作りにもしっかりと触れています。映画の製作にあたり、古絵図を基に、躑躅ヶ崎館のオープンセットを1億円掛けて制作したそうです。ぜひオープンセットを残しておいてほしかったものですね。
ストーリーについても、最初はぎこちなく、ハラハラすることが多かった影武者が、何とか切り抜けながら、信廉はじめ重臣の指導により成長していく様がとてもユーモラスで、飽きる暇なく楽しませてくれます。
個人的には、信玄亡き武田家のためにこれだけ貢献しながら、正体がバレると雨の中追い出されてしまう影武者がとても切ない気分になりました。
最後に、信玄の血を引いた勝頼よりも、バレないためもあって「山は動かず」と言って家康の挑発に決して乗らない影武者の判断の方が、実は信玄らしく、領国経営が上手くいってしまうというところがとても印象的でした。映画では、後を継いだ勝頼は、外征によりあっさりと壊滅してしまいます。
事実、信玄が築いた甲斐・信濃・駿河の三国を有する強国は、勝頼への継承後一代であっけなく滅んでしまう訳ですが、やはり武田信玄は偉大であり、特別であったのだろうという事を思ってしまいます。
■作品データ
- 作品名 影武者
- 監督 黒澤明
- 出演者 仲代達矢、山崎努、萩原健一など
~歴史作品として~
- 歴史に浸れる度 ★★★★★(実際の城や馬・兵のエキストラをふんだんに投入)
- 他では見れない度 ★★★★★(現代ではこれだけ巨額予算の時代劇はありません)
- ストーリー度 ★★★★★(さすが黒澤映画!楽しませてくれます)
- 総合評価 ★★★★☆
- 分かりやすさ度 ★★★★☆(分かりやすく作られています)
- 面白さ度 ★★★★☆(歴史を知っていればさらに楽しめます)
- 女性と見れる度 ★★☆☆☆(歴史好きでないと少々厳しいか!?)
- 総合評価 ★★★★☆
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